何でも出来ると思ってた。
黒崎くんの、みんなの仲間に戻れなくたって、
それでも、自分にしかできないことを為すためなら、それ以外の誰かを、傷つけることに、心は痛むはずなんて、なかったのに。


 

Frailty,thy name is woman.

 

 

「おまえを助ける為だ。それ以外に、奴等には何の理由も無い」
そう言い放ったウルキオラの言葉に、何でもないことのように、笑った。


助けに来てくれた。
みんなが来てくれた。
それは多分、心のどこかで予想していたことで、どこか安心したのが半分、けれど残りの半分は、これから自分が裏切ることへの、拒絶の恐怖だった。
しかし、それも自分で決めたこと。もう、後には引けないのだ。

「出来ること、ないから」
「……そうか」
「はい。」


何も言えなくなった代わりに、真っ直ぐにウルキオラの目を見た。
変わらない表情、独特の碧の目。何も、読み取れない。
けれど、確かに畏怖を感じるのに、彼も自分と同じ生物としてのひとだった時があるのだ、と思うとひどく不思議な気分になる。

「何だ」
「え、」
「早く言え、鬱陶しい。」
こちらの言葉を待つように、小さく促される。
それが意外だったので、どうしようか迷って、織姫は口を開いた。
「……なにか、未練、が…あったんですか」
「?」
「虚になった、こと」
一瞬目があって、今度は直ぐに逸らされた。
「……おまえには知る必要の無いことだ。」

非難されると思ったのに、それ以上彼は何も言わず立ち去った。
部屋を出ていくその背中をぼんやりと見やりながら、ああ、知らなければよかった、と後悔した。

理由があったのだ。と思った。
虚になった、理由。彼が今、此処に存在する、その理由。
そして、その理由の存在を知ってしまったことが、これから自分がしようとしていることをの妨げになると、分かっていた。

きっと、いつか、彼に対する、罪悪感が生まれるのだろう。

そして、もうひとつ。
あの碧に吸い込まれそうになるような、微妙な感覚を自覚する。
水滴が波紋を広げるように、静かで、けれど確かに存在を確信するような。
それは多分、最も気づいてはいけない感情で、必要のない感情で、
けれど、それが自分にとって切り捨てられない感情になる、予感がした。

 



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