いつだったか、隊長の誕生日を雛森に聞いて、藍染隊長と雛森と、あたしと、隊長と四人で、隊舎修練場の上から花火を見たことがある。
あの時のことは、多分一生、忘れないだろう。

 


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十二月二十日は十番隊隊長である日番谷冬獅郎の誕生日だ。しかし、今執務室には乱菊以外誰もいない。十番隊隊舎も、人はまばらだ。
それもそのはず、本日某時刻に於いて、十番隊の管轄内地区の流魂街に巨大虚が出現したためである。
丁度別の仕事に出ていた乱菊は、日番谷が十番隊第三席以下数名を連れて流魂街に行ったことを後から知った。
隊長自らなんて、苦戦しそうなのかな、などと考えながら書類を片付けていると、失礼します!松本副隊長はいらっしゃいますか!と執務室の扉を叩く音がして、第五席の男が入ってきた。


「え、救援要請?」
五席の男と共に地獄蝶が現世からの伝言を伝える。
十番隊の管轄地域に虚が出現し、席次のない十番隊十数名が対応したところ負傷者が出て苦戦中ということであった。

「隊長は居ないし…人手が足りないし…あたししか居ないか。」

乱菊は襷をきゅっと結び直すと、
「四番隊に至急連絡をとって。あっちに送って貰うから。それから、あたしが出ます。」
傍で待機していた十番隊第五席の男に指示を出した。

「副隊長…」
「大丈夫、助けるから。あ、後、隊長が戻ってきたら、報告よろしく。」
地獄蝶が舞う中、斬魄刀をつかんで解錠、と告げた。途端、目の前に大きな扉が出現した。乱菊はすっと、その中に吸い込まれるようにして現世へと向かった。


*


虚を何とか片付けて、負傷者を四番隊に回してもらい、瀞霊挺の十番隊隊舎に戻ってきたときには、午前0:00を回っていた。

「参ったな…」

夜勤の死神以外は恐らく誰も残っていない隊舎を歩いて、執務室へ向かった。
まだやりかけの仕事が残っている。先程の虚退治の報告書も作成しなければならない。
今日は徹夜になるかもしれないなあ、と乱菊は心の中でため息をついた。それだけではない。溜め息を吐くにはもっと別の理由もあった。


今日は隊長のお誕生日だったのに。


誕生日だからといって、何か特別なことを計画していたわけではない。だが、毎年その日を一緒に迎えたかった。「おめでとう」を伝えたかった。
今日に限ってどうしてこうもすれ違うのだろう。

「参ったな…」

同じ言葉がまた漏れた。


*


もう居ないだろうな、と思いながら執務室の扉を開こうとした中から、いつもの霊圧を感じた。
まさか、と半信半疑で扉を開いたら、大きな文机にいつもの上司の姿があった。思わず、目を丸くしてしまう。

「…隊長、何やってんですか」

「おまえの目は節穴か。…仕事してんだろ。」
入ってきた自分をちらっと見て、日番谷はまた手元に視線を落とした。机の上には今日彼が居なかった分の書類が積み上がっていた。
「……」
全く律儀な隊長を持って、十番隊は幸せです、と心の中で乱菊は苦笑いする。


「ご苦労だった、悪かったな、」
それが先程の虚退治のことを指していることがわかったので、乱菊はいえ、と答えた。
「隊長こそ、お疲れ様でした。………終わっちゃいましたね、」
「何が」
「お誕生日」
「ん?ああ…」
そういえばそうだった、と日番谷は顔を上げた。妙な顔になる。

「…おまえ、何て顔してんだ。」
「なんかくやしいんです」
「は?」
「ちょっと自分に腹が立ってるんです!」

あーもう、と云いながら長椅子に乱暴に腰掛けた。
乱菊がこんな風に感情を露わにするのは珍しいことだ。
日番谷が眉をひそめて筆を置いた。


「隊長、」
「何だ」
「おめでとうございます。」
「………ありがとう。」
「いいえ。」


ただおめでとうと伝えられただけなのに、不思議なことにさっきの腹立たしさはどこかに消えてしまった。
自分も結構現金な人間だったんだな、と乱菊は苦笑して、自分の机に向かった。


仕事は山積みだ。
乱菊が給湯室で二人分のお茶を入れて戻ってくると、今日は徹夜かもな、と日番谷が云うので、
「お誕生日に徹夜なんて、ちょっと思い出になりません?」
とちょっと首を傾けると、日番谷は
「なるかよ莫迦、」と、くっと笑った。
あ、笑った。自分もつられて笑顔になった。

日番谷が笑うのは珍しい。
普段からしてあまり笑わないし、そういうところを見られるのは多分、自分の特権かも知れない、と乱菊は思う。

隊長のお誕生日なのに、自分の方がお祝いして貰った気分になってしまった。
願わくばこの十番隊隊長もそうでありますように、と、心の中でこっそり祈った。

 

 

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