一番欲しかったのは。





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定例集会は、ごく偶に総隊長の(どうでもいいような)独壇場になるときがある。
今日がまさにそれで、現に八番隊隊長をちらと見やると、案の定うとうとしている京楽を伊勢七緒が睨んでいた。

会議室の窓からは西日が射し込んでいた。
かれこれ何時間経ったのだろう。
松本乱菊は隣に座る自分の上司に目を移した。
彼もまた、山本総隊長のあまり脈絡の無い話に耳を傾けてはいないようだった。
彼の視線を追うと、そこには五番隊副隊長にの姿があることに気付いた。
やっぱりな、と少しだけ苦笑してしまう。
最も、彼の思い人は、彼に目を向けることは無いのだろうけれど。


ふと、自分も視線を感じてそちらの方を見た。
―ギン。

三番隊隊長である市丸ギンが此方を見ていた。視線が交わる。

会議中だということも忘れて、なに?、と声に出して云ってしまいそうだった。
しかし、「松本」という声で、はっと我に返った。声を掛けられた相手を見る。

会議は終わっていた。

もう一度ギンの居た方に視線を戻すと、既にその姿はもう無かった。
何だか、また置いて行かれたような気がして、乱菊は小さくため息を吐いて立ち上がった。



「なんかあったのか?」
十番隊隊舎に向かってぼんやりと歩いていると、日番谷が自分の眼の下の方を指さしながら云った。
「…え?」
「目の下。クマ出来てるぜ。」
「えっ、嘘!…」
慌てて懐から小さな鏡を取り出して眼の下を眺めると、確かに紫色のクマがこっそり眼の縁に陣取っていた。
「……ちょっと、厭な夢を見たんです。」
「夢?」
「あたし、寝が浅いんですよ。こう見えて、あんまり良く眠れないんです。」
その割には執務室で寝てるじゃねえか、と日番谷が云ったので、それは隊長の側だからです、と返した。
「なんだそりゃ。」
俺は睡眠誘発剤かよ、という日番谷に、そう云う意味じゃないんだけれどなあ、と内心思ったが黙っておくことにした。

「隊長、あたしずっと、欲しいものがあるんです。」
歩きながら、乱菊はぽつりと呟いた。
「何だ」
「置いて行かれないだけの…強さ?じゃなくて、えーっと…」
上手く云えません、と笑った。上手く云えない。でも、置いて行かれるのは厭だった。今も、昔も。
護って貰わなくて良い。同じ場所に立っていたい。

「……そんなもんでいいのかよ。」
暫く黙った後、日番谷が立ち止まった。
「そんなもん、とか云わないでくださいよ。」
傷付くなあ、と云いながら、いつしか笑顔になっている自分に気が付いた。

「…俺は置いてかねえよ。」
「はい?」
振り返った日番谷の背から西日が差し込む。顔は見えなかった。
「おまえは俺の隊の副隊長だ。俺が置いていくと思うか?」
云われて、気付いた。
彼が隊長になってから、自分は何時もあの「ついてこい」という言葉に救われていたこと。
欲しいものは、もう此処にある。そう思った。

「…隊長。」
「何だよ。」
「ありがとうございます。」
「おう。」

二人はまた歩き出した。
少し前を歩く日番谷の耳が真っ赤になっているのは多分、夕日のせいだろうと乱菊は思った。
隊長が隊長で良かったです、と聞こえるか聞こえないか位の声で云うと、仕事するぞ、と云う声が帰ってきたので、何だか嬉しくて、また笑った。

 


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